2025年を舞台に、元兵士の“生”のはかなさと“愛”の尊さを描いた近未来のディストピア映画『アトランティス』と、敵の捕虜となった外科医の運命を、純真な少女の視点を交え、驚くべきショットの連続で凝視した『リフレクション』。『アトランティス』では“戦争終結後”が、『リフレクション』では“侵略戦争のはじまり”が描かれ、今年2月24日のロシアによる全面侵攻開始のはるか前から戦争が行われ、ウクライナはその脅威にさらされてきたという事実を我々に知らしめる。これまでウクライナが辿ってきた過去と、これから辿るであろう未来。かすかな希望のありかを模索しながら研ぎ澄まされた写実性と様式美で映し出した珠玉の2作を今こそ目撃してほしい。
なお、2月以降、ヴァシャノヴィチ監督はカメラを携え、戦禍の現実を撮影していると伝えられている。彼の無事を祈らずにいられない。
ロシアとの戦争終結から1年後の2025年。戦争で家族を亡くし、唯一の友人も失った孤独な主人公セルヒーが、兵士の遺体発掘、回収作業に従事するボランティア団体の女性との出会いをきっかけに、自らが“生きる”意味と向き合っていく姿を描く。死に覆いつくされた世界を漂流する生のはかなさと、そこに芽生えた愛の尊さをサーモグラフィー・カメラが鮮烈に映し出す。
クリミア侵攻が始まった2014年。従軍医師のセルヒーは、東部戦線で人民共和国軍の捕虜となり、悪夢のような非人道的行為を経験。やがて首都キーウに帰還したセルヒーが、失われた日常を取り戻そうと苦闘する姿を、娘ポリーナとの触れ合いを軸に見すえていく。戦争と平和、生と死、肉体と魂、そして贖罪。深遠なる多義性に富んだ本作には、ヴァシャノヴィチ監督の並外れた才気が凝縮されている。
1971年 ウクライナのジトーミル生まれ。カルペンコ・カリー国立演劇・映画・テレビ大学を撮影監督(1995年)およびドキュメンタリー映画監督(2000年)として卒業し、ポーランドのワイダ・スクール(2007年)でも学ぶ。2004年、短編ドキュメンタリー『AGAINST THE SUN』がクレルモンフェラン国際映画祭で審査員賞、ナンシー国際映画祭でグランプリ、トロント国際映画祭で審査員賞を受賞し、ドキュメンタリー作家として認められるようになる。長編ドキュメンタリー『PRYSMERK』はキーフのDocudays FFでスペシャルメンションを受賞し、2015年のオデッサIFFでは最優秀ウクライナ映画としてゴールデンデュークを受賞した。2012年、長編デビュー作『BUSINESS AS USUAL』(オデッサIFF、審査員特別賞、FICC賞)。長編第2作『KREDENS film』はオデーサIFFでFIPRESCI賞を受賞し、アカデミー賞2018のロングリスト入りを果たした。2014年、製作・撮影・編集としてミロスラヴ・スラボシュピツキー監督の『ザ・トライブ』に参加、カンヌ国際映画祭の批評家週間でグランプリを受賞したほか、世界各国で40以上の賞を獲得し、ウクライナ映画最大の成功を収めた。2019年、『アトランティス』が第76回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門作品賞、東京国際映画祭審査委員特別賞を受賞したほか、世界各国で多数の賞や賞を獲得。2021年、最新長編『リフレクション』が第78回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に選出された。
1985年 ウクライナ生まれ。学歴は心理学と実用医学。また、経営とリーダーシップのMBAを取得している。2005年から2009年まで、雑誌「Facts and Comments」、「Today」、「Glare」の特派員、調査ジャーナリストとして活躍。2009年~2014年、ナドラ銀行DTEKのコーポレートコミュニケーション部長を務める。2015~2016年、地上軍旅団の偵察部隊長、2016~現在、慈善財団「カムバック・アライブ」のインストラクター兼軍事部門長を務める。映画出演作品は、ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督の『アトランティス』『リフレクション』。
1986年 ウクライナ、ボドナリウ生まれ。父親が写真家だったため、子供の頃からフィルムカメラが手元にあり、中学3年生の時に村の結婚式などのイベントを撮影し始める。学校卒業後、プレカルパティア国立芸術大学のポップス・マス・スペクタクル演出学科に入学。さまざまな国家の祝典や記念日などに携わったが、それが好きになれず、俳優クラスに変更。2008年、ウクライナ名誉芸術家、アナトリー・フリツァン教授、ウクライナ人民芸術家のコースを卒業し、イワノ・フランキフスク学術地域ウクライナ音楽・演劇劇場の俳優となる。2013年からは、映画にも出演。ファンタジー映画『The Stronghold』(2017年)の撮影をきっかけに知られるようになる。